先日近くの山裾に蕨を採りに出かけた。
山裾の道はめったに人も通らない、砂防工事用に作られた車が一台通れるほどの道。
長閑な春の午後、コナツもお伴、ご機嫌な春の午後。
緩やかにカーブする坂道を上っていくと一台の廃車が林の中に置かれていた。
通り過ぎようとすると車の陰から一人の初老の男性が出てきた。
手には棒を握りしめ、険しい目つきで仁王立ちに立った。
突然のことに足がすくんだけれど怖々、しかしごく普通を装い「こんにちわ~」と言いながら足早に通りすぎてさらに山道を上っていった。
友人と三人で追いかけられたらどうしよう…などなど帰りの道のことが心配で蕨どころではない。
ま、待って、私、あの人、覚えがあるわ!
その人は体の一部に障害があった、さきほどの人も同じ障害があった。
もう20年も前、お仕事で数回行き来があったあの人に違いない。
当時新聞の高額納税者の欄に数年にわたって載った人。
その後、大病をされたこと、奥さまが亡くなられたことなどを風の便りに聞いたことがある。
何があったのかは知る由もない、時という流れに流されてしまったのか…
車の脇の木の枝に洗濯物がポツンと干してあった、木の下には古びた椅子が一つ。
山道に沿ってシロヒナゲシの花が咲き乱れていた。
あの人に違いない。この現実に心が痛む。
どうしたらいいのだろう、行政に相談したらいいのだろうか、そっとしておくのがいいのだろうか。